薬局からのお知らせ

TP、Alb、GOT、GPT、LDHにHbA1c。
こんなに一気に略号に向き合ったのはいつぶりだろう。

 私の手術は2週間後に決まった。
 医師から検査の必要を告げられたのは1ヶ月前の事だ。
 CT、MRI、PET。そうか、検査が始まったあの頃から略号の暴風警戒警報が出ていたのか。
 幸い、命に関わる状況ではないが、やはり手術は必要らしい。
 手術までの間、風邪をひくことなどがないようにと注意を受けた。
 以降、私は外出時にマスクの着用が絶対となった。

 手術前の最終説明と承諾書などなどに加え、血液検査の結果も付け加えた書類の束を受け取ったのは1時間前だ。
 そのまま家に帰っても良かったのだが、少し気分を変えたかった。どうせ夫は老人会の会合に出ているし。
 道端にふと漂ってきたコーヒーの香りになんとなく足を止められ、入り口の意外に軽いドアを通過しテーブル席に座る。
 客は私一人だった。

 メニューからジンジャーティを注文する。

 マスターは古いギターブルーズが静かに流れる店内を横切り、奥に引っ込んでいった。

 

 マスクを外してないことに気づき、カバンにしまい込んだのだが、そのとき薄いピンク色の血液検査結果が目に止まった。
 何気なく取り出し略号の嵐にもまれて、今に至る。

 「お待たせしました。」
 嵐を晴らす一言が聞こえた。
 ガラスのティーポットの中で数種類のハーブとジンジャーチップが踊っている。
 カップに移し替えたジンジャーティをひとくち含む。
 軽い苦味と刺激が口の中で溶け合うのが心地よい。
 ジンジャーの芳香が鼻に抜けるのがわかった。

 頬杖をつき、血液検査に目を落とす。数値はすべて異常なし。
 手術への航路は全く問題ないようだ。
 眺めていても仕方がないことにハタと気づき、カバンにしまい込む。

 

 そういえば、嫁が渡してくれた今日のマスクは不思議な匂いがした。

 

 息子夫婦は私に手術の可能性があると聞き帰ってきていた。
 1週間ほど休みを取ることができたらしい。

 私を気遣ってくれるのはありがたいことではあるが、私は嫁に対してどうにも素直になれないところがある。
 嫁は明るく物怖じしない性格なのだが、ときにそれが鼻につく。
 一緒にいるのは1週間が限界だ。おそらく、息子も私の感情を察しているのだろう。
 家事をちゃかちゃかと済ます嫁を見て、「ありがとう」というべきなのはわかるが、つい当たり前という顔をしてしまう。
 洗濯物を干している私に、手伝おうと声をかけてくれるのはありがたいが、私はまだ嫁に自分の下着を干させるほど落ちぶれてはいない。

 夫は不機嫌な私をみて、いい加減にしろというオーラを発している。
 わかっている。わかっているのだが。
 これが数多の母親を支配してきた姑感情なのだろうか。

 
 今日がおそらく入院前の最後の診察日であろうということは息子を通じて嫁も知っていた。

 嫁は朝早く起き、夫や息子の朝食を整えていた。
 私は朝食抜きを医師より命じられていた。
 身支度を整え玄関に向かう私を、手にマスクを持つ嫁が後ろから追ってくる。
 しぶしぶと受け取り、口と鼻を覆ったのだが、そのマスクが不思議な匂いがしたのだ。

 

 カウンターから出てきたマスターが何やらごそごそとしているなと思うと、夏場に時折見かけるガーデンミストのような音が小さく聞こえてきた。

 わずかな空気の流れに乗り私のテーブル席まで届いた香りは、マスクの香りと同じだ。

 マスターに問うと、小さな茶色のガラス瓶を渡してくれた。
 瓶の横には何やらアルファベットで書いてある。
 略号ではないが、しばらくはアルファベットを見たくない。
 机に置くと、キャップにカタカナが書いてあることに気づいた。
 【ティートゥリー】
 お茶の木?
 再びマスターに問うた。
 オーストラリアのアボリジニが件の木の葉を煮出して飲んでいる姿をイギリス人が見たとき、紅茶を飲んでいると勘違いしティートゥリーと名前をつけたらしい。
 風邪予防にも良いとされるとのこと。
 聞けば、マスク姿の私から同じ香りがしたため、これを選んだとのことだ。
 マスクにティートゥリーで作ったスプレーか何かをつけておられるのだろうと思ったというのはマスター談。

 おそらく、嫁の仕業だろう。
 夫も息子もそんな気の利いたことをするわけがない。

 

 マスターによると、ティートゥリーには気持ちを落ち着ける効果もあるらしい。

 ガラスポットのジンジャーティは空になっている。

 カバンからマスクを出し、顔を覆った。
 一度軽く息を吸い吐き出した。

 不思議な香りはまだマスクの中で続いている。
 今日ぐらいは姑感情から私を解放してみようか。

 

 

 今月の精油【ティートゥリー精油】

 北風が吹き始めると、この精油のストックを確認します。

 風邪予防の強い味方だからです。

 ジェルにして胸に塗ってもよし、作中にもある様にマスク用のスプレーにしてもよし、部屋にディフューズしてもよしと使い勝手もとても良い精油です。

 ちなみに、歯のホワイトニングにも役立つとか。

(精油の使用は自己責任になります。信頼できるアロマテラピストから適切なアドバイスを受けるようお勧めします。)

 

 

【11月のアロマサロンのお知らせ】

日時:11月18,19,20,22,23日14:00~¥1,000(約90分)
・今月の精油:「ティートゥリー精油」
・アロマテラピーの世界:「あろまてらぴーと風邪対策」
・お試しっ!アロマ:「プラなフォースローション(プラナロム)」
・選んで♪作って♫使う♬アロマ:「世界にひとつだけのオリジナルクラフト作成」
・ティータイム「ハーブティとプチスイーツ」

【認知症予防アロマセミナー】

日時:11月26日(火)14:00〜¥500(約60分)

開催日カレンダー・予約はこちら

【先月のアロマサロンのおさらい】

「ラベンダー・アングスティフォリア精油」
 科名:シソ科  主な産地:フランス
 アロマテラピーはこの精油で始まった。とも言われる精油です。

 効能効果は実に広く、家庭にぜひ置いておきたい精油No1です。

 ラベンダー精油は意外に種類が多く、ラベンダーの中には、妊娠中・授乳中の方の使用がNGのものもあります。

 このラベンダー・アングスティフォリア精油はその様な禁忌事項もなく、安心して使用できます。

 香りも、誰もがイメージするラベンダー。別名:真正ラベンダーと呼ばれるのも納得です。

 もし、いわゆるラベンダーの香りが苦手な方は、ラベンダー・スーパーを試してみてください。

 さっぱりとした爽やかな香りを楽しめます。

11月のワークショップは下記の通り開催いたします。

【ワークショップ:天然香水】11月15日14:00〜

【ワークショップ:ハーバリウム】11月9日14:00〜(受付終了)

【ワークショップ:プリザーブドフラワー】11月25日14:00〜

開催日カレンダー・予約はこちら

 

【天然香水(アロマ香水)作成のコツ】

天然香水(アロマ香水)は100%天然の植物精油で作ります。

一番悩むのは精油の選択でしょう。

精油の選択には順番があります。

まずは、ベースノートとなる精油を選びます。

精油の中のベースノートは決して多くはありません。

せいぜい6〜7種類です。その中から好きな香り上位2個を選び、ブレンドします。

これさえ決まれば、あとは比較的スムーズです。

精油を使った香水作りは、精油の奏でるシンフォニーの指揮者になった気分です。

 

【精油の香る喫茶店】10月

 

二席隣にいた女性が出てから十分ほどが過ぎていた。
 美容院後の定番ルートでこの店にいる。

 扉を開けた瞬間にローズウッド製アンティック家具とほんのわずかなコーヒーの香りが鼻をくすぐった。
 二〇代の頃にニューヨーク郊外で嗅いだ香りと似ている。
 流石のニューヨークも郊外になると庭にリスが顔を出すほど緑豊かで、朝靄のかかる中を少しだけ優雅な気分に浸りながら散歩したものだが、その香りと似ていたのだ。

 ブレンドのアメリカンを頼み、残り四分の一ほどが残っている。

 五分ほど前から軽く聞こえていた換気扇の音が止まった。
 マスターはディフューザーのボトルを交換し、ホーウッドが入っていたボトルを無水エタノールで洗浄し終え、カウンターの定位置に収まっている。

 「少し安易すぎますが、北海道におられたとお聞きしましたので」
 定位置から届いた声は、これ以上ないほど飾り気のない、それでいて心地の良い声だった。
 私は、少し急いで残りのアメリカンを飲み干した。

数秒後に届いた香りはラベンダー畑のそれだ。
 目を閉じると、一昨年夫と訪れた風景が浮かんだ。

 

 チーズ用のミルクを採るための牛用の飼料を研究し販売するのが私の夫の仕事だった。
 チーズを直接製造しているわけでもないのに、夫は仕事帰りに意味もなく近くのマーケットに立ち寄りチーズを買ってきていた。
 どれほど違いがわかっているのか私には知る由もなかったが、同じメーカーのチーズを一口頬張り、軽く頭をひねる日もあれば、満足げに頷く日もあった。
 やがて退職し、夫のチーズを買う頻度は徐々に間が空くようになった。

 「ここに行こう」
 どこで見つけてきたのか旅行雑誌のページを開き、突然夫が声をかけてきたときは正直驚いた。
 夫が私のリクエストも聞かずに旅行の行き先を決め、半ば強引に誘うこと自体稀なのだが、それに輪をかけて、行こうと言い出した場所は夫が今まで全く関心を持っていなかったであろうラベンダーの咲きほこる丘だったからだ。とはいえ、年甲斐もなく気持ちが高まったのは否定できない。
 翌日、インターネットに苦手意識の強い夫を尻目に私は宿泊先から移動手段まで全て予約してしまった。同じ道内なので、ある程度土地勘もあるし、それほど大きく悩む必要もなかった。何より、夫の気が変わる前に既成事実を作ってしまいたかった。

 出発の前夜、寝床で本を読んでいた夫は姿勢を崩さずポツリと言った。

「最近、匂いがわからない時がある」

 夫は匂いには敏感だ。
 勤めていたときは、上司のタバコの匂いに辟易していたし、私が美容院に行った日は見た目より先に匂いで気づいていた。娘の香水が変わったのにもしっかり気づいていたし、鍋のやけ焦がしなど誤魔化し様がないほど素早く気づいていた。が、確かに最近は、訪問者のタバコの匂いに触れることもないし、鍋のやけ焦がしは私の方が早く気付く。美容院に行ったことに気づくことも少なくなった。

「そう。そういう時もあるんじゃない?」
 夫が何を気にしているのか思いもよらなかったし、ましてや、頭の中は翌日の出発のことでほとんどが占められていたため、私の軽い一言で会話は終わってしまった。

 

 亡くなった母が晩年やたらと心配性になっていったのだが、年をとると少なからずその傾向が強くなるのだろうか。丁寧にしまってあった旅行鞄は数日前から準備を始められており、出発当日には持ち出すだけになっていた。

 

 車窓を通過する景色は、遅れてきた春をこれでもかとアピールしてくる。
 短い夏が近づいている。
 ふと夫の横顔を見る。つもりがまともに目があった。
 少しの間があり、夫は私の奥を通過する車窓へ視線を移した。
「すまないなぁ」
 あまりに唐突の言葉だったのではっきりと聞き取れなかったのだが、そう言ったように聞こえた。普段から口ごもって話す夫の言葉は、聞き取りづらいことが多い。いつものことだと思い、いつものように相槌を打ち、私は車窓に目を移した。

 

 チェックインを済ませた初老夫婦はラベンダー畑にいる。

 丘を撫でる風に乗り、ラベンダーの芳香が鼻腔を刺激する。

 くしゃみをしてしまった。

 夫は隣で眼下に広がるラベンダー畑を見下ろしている。
「ラベンダーにも種類があるんだな」
 これははっきりと聞き取れた。
「一度本物を嗅いでみたかった。」
 本物?と訝しく思ったのだが歩を進めラベンダーが、以前玄関に置いていた芳香剤の絵と同じ種類に変わったところで気がついた。
 夫が通勤していた頃、玄関の芳香剤にラベンダー表示のものを使っていた。何かでラベンダーにリラックス効果があると聞き、それ以降ラベンダーの香りという触れ込みの芳香剤を選んでいたのだ。
 玄関に芳香剤を置かなくなり久しいのだが、夫にとって仕事前後の香りとして印象に残っていたのだろうか。

 

 「帰ったら病院に行ってみようと思う。」
 またもや唐突の言葉なのだが、これには適当に相槌を打つことができない。
 「どこか調子が悪いの?」

 夫は、匂いがわからないことがあり、認知症の初期にそういうことがあるらしいと述べた。
他人が聞けば普段と全く変わりない口調だろうが、不安を極力押し隠そうとした話し方であることが私にはわかった。

 「もしそうなら、匂いがわからなくなる前に、お前と本物を知りたかったんだ」

 

 

夫の治療のことも考え、夫の故郷に引っ越して一年半になる。
時が過ぎるのは驚くほど早い。

 

 

 あぁ、そろそろ夫の診察が終わる頃だ。
 今ここを出ると、帰宅する夫を迎えることができる。

 マスターからラベンダー・アングスティフォリアを購入した。
 玄関にディフューズする予定だ。

 

 

今日の精油【ラベンダー・アングスティフォリア精油】
 真性ラベンダーとも呼ばれ、誰もがイメージするいわゆるラベンダーの香り。
 アロマテラピーはこの精油から始まったと言われます。
 効能効果も多岐にわたり、「困った時はこの精油を選べば良い」という乱暴な?コメントをするアロマテラピストもいるとかいないとか。
 ラベンダーには複数の種類があり、物によっては使用注意や禁忌のあるものもありますが、ラベンダー・アングスティフォリアにはそれらの注意事項はありません。
 ひところ、認知症の進行予防になると話題になった精油の一つでもあります。
 値段もお手頃のものが多く、自宅の精油ボックスに必ず置いておきたい精油の一つです。

10月のワークショップは下記の通り開催いたします。

【ワークショップ:天然香水】10月28日14:00〜

【ワークショップ:ハーバリウム】10月18日14:00〜

【ワークショップ:プリザーブドフラワー】10月30日14:00〜

開催日カレンダー・予約はこちら

 

【クラフト作成ガイド】

<アンチエイジングオイルの作り方>

①殺菌消毒したドロップ瓶等に植物油(ファーナスオイル、ホホバオイルなど)を10ml入れる。

② ①の容器にホーウッド精油6滴、パルマローザ精油5滴、ロックローズ精油2滴、ヘリクリサム精油1滴を加え、蓋をして軽く振り混ぜる。

③1日1回適量を塗布する。

(当店では精油を1滴から販売いたしております。植物油をお持ちであれば、非常に安価で作成できます。)

【10月のアロマサロンのお知らせ】

日時:10月21,23,25,26,29日14:00~¥1,000(約90分)
・今月の精油:「ラベンダーアングスティフォリア精油」
・アロマテラピーの世界:「精油とリラクゼーション」
・お試しっ!アロマ:「ソンバーユ」
・選んで♪作って♫使う♬アロマ:「世界にひとつだけのオリジナルクラフト作成」
・ティータイム「ハーブティとプチスイーツ」

開催日カレンダー・予約はこちら

【先月のアロマサロンのおさらい】

「ホーウッド精油」
 科名:クスノキ科  主な産地:中国
 入手が難しくなっているローズウッド精油の代わりとして注目されている精油です。

 主な成分はリナロール。

 リナロールにはl体とd体があり、それぞれの作用が違います。ホーウッド精油には主にl-リナロールが多く含まれると言われ、気持ちをリラックスさせることが期待できます。

 酸味のある木調の香りはどこか懐かしさを感じさせます。

 ホーウッド精油は、焚き火を見ながらゆったりとした時間を過ごしているかのような、穏やかなリラックスタイムに一役買ってくれそうです。

【精油の香る喫茶店】9月

 

扉は思いのほか軽かった。

 5、6人が座れるカウンターと4人がけのテーブル二組。

 抑えた照明と静かに流れる音楽はどこからどうみても喫茶店、いや”昭和の喫茶店”なのだが何か違和感を感じる。

 「どうぞ」

 BGMの間を縫うような穏やかな声でカウンター席を勧めるマスターは、白いシャツに黒の蝶ネクタイとこれまた昭和の喫茶店のマスターそのものだ。

 グラスを拭いている。

 エスプレッソを頼んだ。

 

 今思えばアウトドアに過剰ともいえる憧れを持っていた頃、気の合う友人が手に入れた直火タイプのエスプレッソ・メーカーで淹れたエスプレッソを、焚き火の揺らぎを見ながら飲んだのを思い出したのだ。

 薪の燃える香りと濃いコーヒーの香りが絡み合い鼻腔を通過した瞬間は、特別な空間に自分がいると錯覚させるのに充分な刺激だった。

 

 「少しお待ちください」

 マスターはカウンター奥の音楽室にあるような扉の奥に消えた。

 

 まだ、違和感は続いている。

 

 静かに流れるのはJAZZだ。レコードが回っている。

 自称音楽マニアの上司によると、スマホで聞く音楽はファーストフードのようなものらしい。本当の音楽好きはレコードだよ。と力説していたが、私にその違いはわからない。

 

 扉が開き、視界にエスプレッソが入った。

  マスターは先ほどと同じ場所に立ち、グラスを磨いている。

 

 違和感が消えた。

 それが何かわからないが、確かに消えた。

 ごくごく平凡なエスプレッソ。いや、マスターの名誉のために言うが、あの時のエスプレッソよりはるかに美味しい。が、ごくごく平凡。

 

 A面の終わったレコードを裏返しにマスターがカウンターを出た。

 

 焚き火の香りがした。

 違和感。

 

 エスプレッソを飲む。

  違和感が消える。

 

 軽い扉が開き、客が入ってきた。

 また違和感。

 

 客は常連のようだ。

 初老の女性。ショートに軽いウェーブの白髪。落ち着いたツーピース。

 小さなハンドバックだけを持っているところを見ると、買い物帰りではなさそう。

 「ブレンドをアメリカンでお願いします。」

 上品な声。

 マスターは重い扉の奥に消えた。

 右目の端で女性が水を一口含むのを意識しつつ、エスプレッソを口に含んだ。

 女性は軽く深呼吸をしている。一度だけだ。ため息ではない。

 見えない何かを体内に取り込み、ゆっくりと体を巡らせてから惜しむかのように音もなく吐き出す呼吸。

 静かな時が流れている。

 

 「お待たせしました。」

 ブレンドが届いた。一口含み、目を閉じている。

 

 マスターは同じ位置で相変わらずグラスを磨いている。

 

 腕時計は正午半を指している。

 あと15分はゆっくりできる。次のアポイントは午後イチだが、車だとものの数分で着ける。

 グラスについた水滴を指先でなんとなく撫でてみた。

 焚き火とエスプレッソの夜は、思わぬ雨で終了となった。

 ゲリラ豪雨というほどの大げさな雨ではなかったが、二杯目のエスプレッソを諦めさせるには十分だった。焚き火を見ながら徹夜覚悟で話し込むつもりが、文字通り水を差された。

 女二人、テントを打つ雨音を聞きながら意味もなく笑っていた。

 翌朝、とっさにひっくり返して置いていたステンレス製のカップとエスプレッソ・メーカーは、雨か朝露か知らないが、水滴で彩られていた。

 

 

 エスプレッソを飲む。

 あの焚き火を思い出す。

 

 ふとマスターがカウンターの奥に消えた。

 鼻腔にまた焚き火の香りが届いた瞬間、違和感の正体に気づいた。

 

 人が動き、空気が動くたびに、ほのかに香りが変わる。

 いや正確に言うと、焚き火の香りが私のみぞおちの高さにあるエスプレッソの香りと絡み、押し出し、押し返され、私を記憶の世界へ誘う。

 

 ほぼ全ての喫茶店に巣食っている、珈琲芳香分子占領軍がこの部屋にはいないのだ。

 

 重い扉の向こうはおそらくキッチンだろう。

 換気扇に工夫でもしているのだろうか。

 店の外には芳しいまでのコーヒーの香りが漂っているのだが、この空間にその香りがない。

 代わりに、焚き火の香りがしている。

 

 カウンターの上にある小さな遮光瓶。ラベルにはCinnamomum camphora CT LINALOL と表示してあり、キャップにはホーウッドと書いてある。

 

 違和感の正体。コーヒーの香りのしない喫茶店。そして、代わりに焚き火の香り。

 私の何気ない記憶の中にある香り。

 

 女性は遮光瓶を手にし、マスターと話し始めた。

 「今朝はこれの気分だったのですね。」

 「ふと薪風呂の香りを思い出しまして。少し酸味のある木の香りでしょうか。」

 

 

 

  友人はまだあのエスプレッソ・メーカーを使っているのだろうか。

  焚き火の香りの記憶に、わたしはあと5分だけ浸ることにした。

 

 

 

今日の精油【ホーウッド精油】

 ローズウッドの減少に伴い、注目され始めた精油。成分もローズウッド精油とよく似ており、代用品として使われることもしばしば。

 酸味のあるウッド調の香りは、気持ちを落ち着け、集中力を高めてくれると言われます。

 成分の大半はモノテルペンアルコール類の芳香分子リナロールが占めており、リナロールには鎮静作用、血圧降下作用、抗不安作用があるとされています。

 また、モノテルペンアルコール類全体として、抗菌作用があるともされます。

 ホーウッド精油全体の作用として、皮膚強壮作用や収斂作用があるとされ、お肌のケアにしばしば用いられる精油です。

 香りの高い樹木の小枝に囲まれているような木々の優しさを思わせる、自分の中の穏やかな気持ちを呼び起こさせる香りです。

今後、アロマサロン内の今月の精油にちなんだオリジナルエッセイ【精油の香る喫茶店】をアップいたします。

今月はホーウッド精油。

是非お楽しみください。

 

 

 

9月のワークショップは下記の通り開催いたします。

【ワークショップ:天然香水】9月18日14:00〜

【ワークショップ:ハーバリウム】9月17日14:00〜

【ワークショップ:プリザーブドフラワー】9月20日14:00〜

開催日カレンダー・予約はこちら

 

【クラフト作成ガイド】

<虫除けスプレーの作り方>

①シトロネラ・ジャワ、ゼラニウム・エジプト、ユーカリ・レモン、リトセア、レモングラス、ペパーミントから3種類選ぶ。

②ソルビラーザー5mlをビーカーに入れ、3滴ずつ入れるたびによく混ぜ、合計9滴まで同じ作業を繰り返す。

③精製水を45mlになるように加え、よく混ぜ、スプレー容器(50ml)に入れる。(都度よく振ってから使用してください。)

◎「ソルビライザー」とは精油と水を混ぜるための植物由来の基材です。

男性も美容に気をつかようになってきたと言われます。

また、香りについて気にする男性も増えてきました。

女子力ならぬ男子力アップには香りの上手な纏い方も必須です。

アロマテラピーはそんな男性にぴったりな知識が豊富に含まれています。

それで、ラミーアロマテラピーでは【男性向けアロマテラピー講座】をプレ開催いたします。

200回を超えるアロマテラピー講座を主宰してきたアロマインストラクターが男性向けに的を絞ってお教えします。

男性はもちろん、女性の方もご家族やパートナーのために是非参加してみてください。

【開催日時】

8月31日(土)14:00〜15:00

参加費:¥1,000

テーマ:「オーデコロンを作る!」

お申し込みはこちら