平素よりラミーアロマテラピーをご利用いただき、誠にありがとうございます。
中村五郎薬局内で3月に開催を予定しておりましたアロマサロン及びワークショップにつきまして、新型肺炎感染拡大の影響を鑑み中止することに致します。
楽しみにされていた皆様には多大なご迷惑をおかけいたしますことを心からお詫び申し上げます。
また、3月25日マルヤガーデンズでのアロマセミナーは開催する予定です。
今後とも、どうかよろしくお願い申し上げます。
ラミーアロマテラピー代表 中村 佳介
平素よりラミーアロマテラピーをご利用いただき、誠にありがとうございます。
中村五郎薬局内で3月に開催を予定しておりましたアロマサロン及びワークショップにつきまして、新型肺炎感染拡大の影響を鑑み中止することに致します。
楽しみにされていた皆様には多大なご迷惑をおかけいたしますことを心からお詫び申し上げます。
また、3月25日マルヤガーデンズでのアロマセミナーは開催する予定です。
今後とも、どうかよろしくお願い申し上げます。
ラミーアロマテラピー代表 中村 佳介
「マスター!聞いたかい!?」
自称江戸っ子の多胡さんはこの喫茶店の常連だ。
年の頃は60代半ば。白髪混じりの短髪。仕事は魚屋だが、ここに来る時は、念入りに体を流し、夏場はポロシャツ、冬場はコーデュロイパンツにフィッシャーマンズセーターという出で立ちで週の半ばに現れる。
マスターはそこまで気を使わなくてもと言うのだが、「いや、俺のだんでぃずむが許さねぇ」と自らに課したスタイルを保ち続けている。
その多胡さんが今日は前掛けにハチマキのスタイルで現れた。
「どうしたんですか?店はよろしいんですか?」
マスターはほんの数秒驚いた様子だったが、すぐにいつもの表情に戻った。
「あの馬鹿ガイだよ!」
馬鹿ガイとは同じ商店街でコンビニを経営している甲斐さんの事だ。
「甲斐さんがどうかされたんですか?」
多胡さんによると甲斐さんのコンビニで中学生数人が万引きをしているのを店員が見つけたらしい。
当然、親が呼び出されたのだが、子供らはヘラヘラ笑っている。それを見た親のひとりが自分の子供を殴り飛ばしたらしいのだ。
警察沙汰になり、"親"が捕まった。それを黙って見ていた甲斐さんを多胡さんは怒っているのだ。
「俺たちが子供の頃は、悪いことをしたら、怒られてたじゃねぇか。万引きなんぞしたひにゃぁ一発殴られるどころじゃ済まなかったよ。近所の爺さんの家の柿を一個盗んだ時には爺さんからしたたか怒られたぜ。そのあと、親からはボコボコよぉ。親父は爺さんに一升瓶ぶら下げて謝りに行ったもんさ。警察が出てくることなんざなかったよ。馬鹿ガイの野郎みたいに子供の悪さを黙って見てる大人なんざ一人もいなかったよ!ましてや悪さを怒る親が捕まるとはどういうことだい!俺ぁ甲斐はもう少し骨のある奴だと思ってたぜ。情けねぇ。」
「うるせぇ。骨がねぇのはタコも同じじゃねぇか。」
扉の前に肩を落とした甲斐さんが立っている。
「俺だって自分の子供がおんなじことをしたら殴り飛ばすよ。でもよ、法律がそれを許さねぇんだと。」
「じゃあ、子供が悪さをしたらどうやって怒るんだよ?」
「褒めて教えろだとさ。」
「何?じゃあ、なにかい?”もっと盗めたのにお前はよくこれだけで我慢したねぇ〜”とでも言えってか?冗談じゃねえよ!」
「しようがないさね。お偉い先生方が考えてお上がお決めになったんだろ。」
多胡さんも甲斐さんも黙り込んでしまった。
「とりあえずどうぞ。」二人にジャスミンティーをマスターは差し出した。
「マスター。なんかない?」甲斐さんは鼻の前を手で扇ぎながら聞いた。
「そうですね。子供を怒る時に合う香りなどはないのですが、これはいかがでしょう?」
マスターの手の小瓶はカモマイル・ローマン。
子供のストレスにもよく使う香りだとの説明を聞きながら、香りを嗅いでいた多胡さんが口を開いた。
「まぁ、確かに最近の子供らは俺らの時代にはないストレスがあるかもなぁ。」
「一体いつからこんな感じになっちまったのかねぇ。」
しばらくの間、喫茶店内はジャスミンティを啜る音と沈黙のみが居座ることとなった。
【全てフィクションです】
【プリザーブドフラワー&ハーバリウム】2月17日(月) 14:00〜各¥1,800-(約30分~60分)
【天然香水】2月26日(水) 14:00〜¥2,000-(約15分~60分)
今月からプリザーブドフラワーとハーバリウムは同じ日に作成できるようにいたしました。
お値段はそれぞれ1,800円ずつとなります。
【2月のアロマサロンのお知らせ】
日時:2月10、14、15、18、19日14:00~¥1,000(約90分)
・今月の精油:「カモマイル・ローマン精油」
・アロマテラピーの世界:「フェイスリフトアップについて」
・お試しっ!アロマ:「マカデミアナッツ」
・選んで♪作って♫使う♬アロマ:「世界にひとつだけのオリジナルクラフト作成」
・ティータイム「ハーブティとプチスイーツ」
【認知症予防アロマセミナー】
◆日時:2月15日(土) 15:45~¥500
人がいいにもほどがある。
めずらしくBGMの流れていない喫茶店内で、いい歳した男には似合わない赤いハビスカスティを見ながら思わず呟いた。
父親から社員百人ほどの今の会社を引き継いでもうすぐ10年。
父親は会長、私は社長として経営しており、幸い業績は安定している。
事件が起きたのは半年前。
一人の重役が数千万円を横領していた事が発覚した。
警察への対応、関係各位への謝罪。
諸々が落ち着いたのは最近だ。
当の重役は発覚後に有り金全て持って家族を置いて雲隠れし、やがて逮捕。金はほとんど残っておらず横領された金が戻る見込みは、ない。
残された家族は何も知らず、何が何やらわからないうちに物事が進んでいった様子だ。
無一文になった家族は奥さんと子供三人。奥さんは専業主婦だが、質素で信頼のおける人だという印象を持っている。長男は高校2年生、長女は中学2年生、末の女の子は小学5年生。
家族は家を引越し、奥さんはやっと見つけたパートの仕事を始めたらしい。
数日前、父と母が連れ立って残された家族に会いに行った。
何もない小さなアパートの薄暗い部屋。揃わない湯呑で出された薄い茶を啜りながらの話。
曰く、夫は横領した金以外にも多額の借金を作っていた事、長男は高校を辞め、働くつもりでいること、夫が横領した金も少しずつでも返したいと思っている事などなど。
元重役に余計に腹が立ったが、それ以上に家族が不憫なのは間違いない。
会長から話があると呼び出されたのは今朝の朝礼後。
会長室に行くと、母もそこにいた。
「お前はどう思う?」
椅子に座るのを待てないかのように父が訪ねた。
「何が?」
「あいつの家族のことだ。」
どう思うもなにも、と口を開く間もなく母が話し始めた。
「お父さんと話したんだけど、私たちには個人的な資産がある。それを、あの子たちに使ってあげようと思うんだけど、あなたはどう思うかしら?」
「はぁ?!あの子たちにって?」思わず声が大きくなった。
父曰く、例の家族に会いに行った後、夫婦でかなり話し合ったらしい。
結果、あの一家の背負った借金を自分たちの私財で肩代わりしてやろうという事になったというのだ。その上で強制はしないが、お前にも協力してもらえないかとのことだ。
確かに、家族、ましてや子供たちに罪はない。このままではあの家族は路頭に迷うかもしれない。長男もまだまだ未来のある若者だし、下の子供たちも、もちろんそうだ。
両親の気持ちはわかる。しかし、それにしても人が良すぎるんじゃないだろうか。
少し考えさせてくれと言い、頭を冷やすつもりで会社を出た。
「おかわりをお注ぎしましょうか?」
マスターがティーポットを持っている。
「ありがとうございます。」カップを差し出した。
「ここしばらく大変だったでしょう。」
マスターの気遣いに感謝しつつ、先ほどの話をした。
「よろしければどうぞ。」
話が一息ついたところで、マスターが試香紙を差し出した。先端が薄茶に染まっている。
「ミルラです。和名は没薬とも言います。キリストが死の間際、苦痛を和らげるために差し出された葡萄酒に没薬が入っていることに気づき、それを受けなかった。と言われています。没薬には強い鎮静効果があると言われていますから、死の直前まで意識をしっかりと保つためにだそうです。
またキリストの死は人々の罪を背負っての死である、という考え方があります。いわば、自己犠牲の愛というのでしょうか。」
「自己犠牲の愛か。」
重みのあるミルラの香りを嗅ぎながらつぶやいた。
刑柱の上でのキリストはどんな気持ちだったのだろうか。
もう一度、試香紙を鼻に寄せながら目を閉じた。
あの家族の様子が浮かんだ。
翌年、翌々年、彼らは笑っているだろうか。
まぁ、こんな時代、人がいいにもほどがあるほど人がよくなってみるのも悪くない。
2杯目のハイビスカスティはことのほか美味だった。
【ハーバリウム】1月17日(金) 14:00〜¥1,800-(約30分~60分)
【天然香水】1月15日(水) 14:00〜¥2,000-(約15分~60分)
【プリザーブドフラワー】1月14日(火) 14:00〜¥1,800-(約60分)
2020年になりました。
今年もラミーアロマテラピーは新しい企画、楽しくなる商品、喜んでいただける時間を生み出せるよう頑張ってまいります。
まずは、今年、今まで扱っていなかった新しい香りが登場します!!
是非お楽しみに!!
代表 中村佳介
【ハーバリウム】12月21日(土) 14:00〜¥1,800-(約30分~60分)
【天然香水】12月11日(水) 14:00〜¥2,000-(約15分~60分)
【プリザーブドフラワー】12月23日(月) 14:00〜¥1,800-(約60分)
【マスクスプレー】
①スプレー容器に無水エタノール8mlを入れ、ティートゥリー精油など5〜10滴を加え混ぜます。
②精製水を2ml加え混ぜます。
③マスクをつける前にマスクの外側に1〜2プッシュします。
【1月のアロマサロンのお知らせ】
日時:1月20,21,22,24,25日14:00~¥1,000(約90分)
・今月の精油:「ミルラ精油」
・アロマテラピーの世界:「キャリアオイルについて」
・お試しっ!アロマ:「マカデミアオイル(プラナロム)」
・選んで♪作って♫使う♬アロマ:「世界にひとつだけのオリジナルクラフト作成」
・ティータイム「ハーブティとプチスイーツ」
【認知症予防アロマセミナー】
◆日時:1月18日(土) 14:00~¥1,000
青年は地元野球少年団のコーチだ。
カウンターに出されたカモミールティを見つめ、大きなため息をついた。
どうも最近物事が思うように動かない。
気持ちが塞ぎ込むことが多い。原因が何かはわかっている。問題は、それが複数あること。
それが餌に群がる魚のように同時に襲ってきたことだ。
何かの壁にぶつかることはあっても、それなりに乗り越えてはきたが、壁にぐるりと自分を囲まれたのは初めての経験だ。
壁その一はチームの選抜問題。
これは俺には直接の決定権はない。監督が決める。のに、チームの親たちは俺にうちの子をなんとかとアピールしてくる。直球で頼んでくるなら躱しようもあるが、遠回し遠回しに、しかしビシビシと選抜メンバーに加えてくれるよう押し出してくる。
それなりに真剣に向き合うのは後々の付き合いに関わることでもある。
腰を据えて話をしようとじっくり話しているとすぐに数十分の時間が経つ。
やれやれ帰ろうかとすると遠巻きに順番待ちをしていた親に捕まり、気がつけば夕食の時間を過ぎていることもしばしばだ。
で、ここ数日は最後の逃げの一手で決定権は監督にあるを連発していたのだが、監督から「今回の選抜メンバーは君が選んでみてくれないか」とのメッセージがスマホに届いたのがつい三十分前だ。どうやら、親たちと話し込んでいた事が、親たちから信頼されているというとんでも無く迷惑な評価を下させたらしい。
速攻「無理です」とメールを送ったのだが、今回は試しにやってみてくれとの有無を言わさぬ返り討ちにあった。
壁その二は家業を継ぐか問題。
実家は花屋を営んでいる。
最近ではインターネットでの受注も多く、それなりに経営はうまくいっているらしい。
子供の頃から植物に囲まれていたので、花屋独特の緑の濃い匂いも好きだ。門前の小僧もなんとかで、見よう見まねだがフラワーアレンジメントもできる。
弟はまだ学生で、時々店を手伝っているが、後を継ぐ気は無いと言い切っている。
「兄貴の方がセンスもいいし、第一俺が勉強しているのは花屋とは全く無縁の分野だ」というのが工学部に通っているあいつの言い分だ。
つい先月、親父が倒れた。正確にいうと、腰を痛めてしまった。一週間ほど入院しブロック注射でなんとか普通に生活できているのだが、めっきり自信をなくしてしまったらしい。今までは遠回しだったのだが、最近は、お前に継いでほしいとかなりはっきり言うようになった。
今の職場に入社し三年。それなりに仕事を覚えたつもりだし、エスカレーター式に後輩もできている。
タチが悪いことに、俺自身、今の会社にも実家の花屋にもどちらにも魅力を感じている。
一介の会社員で一生を終わるつもりであれば何も悩む必要はないのだが、いずれ家業を継ぐとなると、それは経営者になるということだ。
あまり悠長に構えていると、経営のノウハウを体得するタイミングが遅れてしまい、先々梃子摺ることになりそうだ。さて、どうする。
壁その三は恋人問題。
由香里は俺には過ぎた恋人だと思っている。
チーム、仕事、実家とそれぞれに振り回されてろくに会う時間を取ることもできないのに、良き理解者になってくれている。
彼女そのものには何も問題はない。むしろ、俺には過ぎた人だ。
問題は、彼女の仕事だ。
転勤の話が出ている。しかも離島だ。
遠距離恋愛になる。
自分の時間のコントロールすらできないお前に、遠距離恋愛なんぞできっこない。お互い自由になるのも彼女への愛情なんじゃないか。などという俺にとっては迷惑この上ない、でも頷かざるを得ないアドバイスをする奴もいる。
で、壁その四。
今月、少々金を使い過ぎた。月末ピンチだ。
もう一度大きなため息をつくつもりで、鼻から息を吸ってふと息を止めた。
ゆっくりと肺に溜まった二酸化炭素を鼻から吐き出しつつ、ことさら愛想がいいわけではないが、無愛想でもない絶妙な立ち居振る舞いで、カウンター奥の重い扉に手をかけたマスターに聞いてみた。
「マスター。この香りは?」
「フランキンセンスです。ストレスにいい香りだと言われています。男性の失恋にも使うそうですよ」
彼女との待ち合わせに数回使ったので、マスターも彼女を見知っているはずだ。多分、マスターなりのジョークなのだろう。
「大きなお世話です。」
カウンターに置いてある遮光瓶を手に取り、左手首に一滴付け右手首と合わせこすり合せる。そして、手のひらで鼻から口を覆うようにして深呼吸をする。
マスターに教わった嗅覚法だ。
目を閉じ、ゆっくりと香りを吸い込む。
俺に群がっていた魚がいくらか散っていった。
一つ一つ、乗り越えるしかないよな。
まずは、選抜からやるか。その前に、彼女の声を聞こう。少しゆっくり話してみよう。次の休みは実家に行くか。え〜っと、カネ、カネはもう少しセーブすれば今月は凌げるか。
目を閉じたまま次の一手を考える。
俺の頭もなかなか捨てたもんじゃない。
少々癖のあるフランキンセンスの香りとカモミールティはあまり相性が良くないなと感じながら、残りを飲み干し俺は店を出た。
外には芳しい珈琲の香りが漂っていた。
明日もいい天気になりそうだ。
【今日の精油:フランキンセンス】
カンラン科の樹木の樹脂を水蒸気蒸留して得られる精油。「乳香」としても知られています。
古来より強いストレスを感じる時に使用されており、メンタルのケアに役立つ精油としてしばしば話題にのぼります。
フランキンセンスの香りを心地よいと感じるか否かでその時のメンタルチェックにも使えるとか。
集中力強化にも役立つとのこと。学生から社会人まで世代問わずなにかと役立つ精油の一つです。
TP、Alb、GOT、GPT、LDHにHbA1c。
こんなに一気に略号に向き合ったのはいつぶりだろう。
私の手術は2週間後に決まった。
医師から検査の必要を告げられたのは1ヶ月前の事だ。
CT、MRI、PET。そうか、検査が始まったあの頃から略号の暴風警戒警報が出ていたのか。
幸い、命に関わる状況ではないが、やはり手術は必要らしい。
手術までの間、風邪をひくことなどがないようにと注意を受けた。
以降、私は外出時にマスクの着用が絶対となった。
手術前の最終説明と承諾書などなどに加え、血液検査の結果も付け加えた書類の束を受け取ったのは1時間前だ。
そのまま家に帰っても良かったのだが、少し気分を変えたかった。どうせ夫は老人会の会合に出ているし。
道端にふと漂ってきたコーヒーの香りになんとなく足を止められ、入り口の意外に軽いドアを通過しテーブル席に座る。
客は私一人だった。
メニューからジンジャーティを注文する。
マスターは古いギターブルーズが静かに流れる店内を横切り、奥に引っ込んでいった。
マスクを外してないことに気づき、カバンにしまい込んだのだが、そのとき薄いピンク色の血液検査結果が目に止まった。
何気なく取り出し略号の嵐にもまれて、今に至る。
「お待たせしました。」
嵐を晴らす一言が聞こえた。
ガラスのティーポットの中で数種類のハーブとジンジャーチップが踊っている。
カップに移し替えたジンジャーティをひとくち含む。
軽い苦味と刺激が口の中で溶け合うのが心地よい。
ジンジャーの芳香が鼻に抜けるのがわかった。
頬杖をつき、血液検査に目を落とす。数値はすべて異常なし。
手術への航路は全く問題ないようだ。
眺めていても仕方がないことにハタと気づき、カバンにしまい込む。
そういえば、嫁が渡してくれた今日のマスクは不思議な匂いがした。
息子夫婦は私に手術の可能性があると聞き帰ってきていた。
1週間ほど休みを取ることができたらしい。
私を気遣ってくれるのはありがたいことではあるが、私は嫁に対してどうにも素直になれないところがある。
嫁は明るく物怖じしない性格なのだが、ときにそれが鼻につく。
一緒にいるのは1週間が限界だ。おそらく、息子も私の感情を察しているのだろう。
家事をちゃかちゃかと済ます嫁を見て、「ありがとう」というべきなのはわかるが、つい当たり前という顔をしてしまう。
洗濯物を干している私に、手伝おうと声をかけてくれるのはありがたいが、私はまだ嫁に自分の下着を干させるほど落ちぶれてはいない。
夫は不機嫌な私をみて、いい加減にしろというオーラを発している。
わかっている。わかっているのだが。
これが数多の母親を支配してきた姑感情なのだろうか。
今日がおそらく入院前の最後の診察日であろうということは息子を通じて嫁も知っていた。
嫁は朝早く起き、夫や息子の朝食を整えていた。
私は朝食抜きを医師より命じられていた。
身支度を整え玄関に向かう私を、手にマスクを持つ嫁が後ろから追ってくる。
しぶしぶと受け取り、口と鼻を覆ったのだが、そのマスクが不思議な匂いがしたのだ。
カウンターから出てきたマスターが何やらごそごそとしているなと思うと、夏場に時折見かけるガーデンミストのような音が小さく聞こえてきた。
わずかな空気の流れに乗り私のテーブル席まで届いた香りは、マスクの香りと同じだ。
マスターに問うと、小さな茶色のガラス瓶を渡してくれた。
瓶の横には何やらアルファベットで書いてある。
略号ではないが、しばらくはアルファベットを見たくない。
机に置くと、キャップにカタカナが書いてあることに気づいた。
【ティートゥリー】
お茶の木?
再びマスターに問うた。
オーストラリアのアボリジニが件の木の葉を煮出して飲んでいる姿をイギリス人が見たとき、紅茶を飲んでいると勘違いしティートゥリーと名前をつけたらしい。
風邪予防にも良いとされるとのこと。
聞けば、マスク姿の私から同じ香りがしたため、これを選んだとのことだ。
マスクにティートゥリーで作ったスプレーか何かをつけておられるのだろうと思ったというのはマスター談。
おそらく、嫁の仕業だろう。
夫も息子もそんな気の利いたことをするわけがない。
マスターによると、ティートゥリーには気持ちを落ち着ける効果もあるらしい。
ガラスポットのジンジャーティは空になっている。
カバンからマスクを出し、顔を覆った。
一度軽く息を吸い吐き出した。
不思議な香りはまだマスクの中で続いている。
今日ぐらいは姑感情から私を解放してみようか。
今月の精油【ティートゥリー精油】
北風が吹き始めると、この精油のストックを確認します。
風邪予防の強い味方だからです。
ジェルにして胸に塗ってもよし、作中にもある様にマスク用のスプレーにしてもよし、部屋にディフューズしてもよしと使い勝手もとても良い精油です。
ちなみに、歯のホワイトニングにも役立つとか。
(精油の使用は自己責任になります。信頼できるアロマテラピストから適切なアドバイスを受けるようお勧めします。)